
記録を取りはじめてからハワイで初めてのサメによる犠牲者は、ヌウアヌ・パアフという名前のサーファーだ。日時、被害者の年齢などは不明だが、1779年のとある波のいい日、ハワイ島マリウの海岸で波乗りをしていたヌウアヌ・パアフはシャーク・アタックに遭い、臀部を噛まれ、しばらくは激痛に耐えながらサーフボードに乗って逃がれたが、ポロルー付近で死亡している。
それから50年後の1828年、日時、被害者の年齢などは不明だが、ハワイのシャーク・アッタク犠牲者第二号もサーファーだった。マウイ島ラハイナで起こったもので、ウオの海岸で波乗りをしていた男性がシャーク・アタックされ、脇腹から足にかけて噛まれ、死亡した。被害者はボディボードを使用していたために水中に没していた身体の部分をやられた。このシャーク・アタックは、複数の酋長によって目撃されていることから、これは、サーフィンの賭け大会に出場していた選手の一人が襲われたものと推測される。サーファー以外の被害者がでるのはそれからさらに58年後の1886年6月2日、ハワイ島ハーマークアの海岸で水浴び中の2人の女性がサメに襲われ、1人が死亡、もう1人は行方不明になっている。
テイトン・テイラー博士のシャーク・アタックのレポートによると、サメに襲われるサーファーの数の多さに驚かされる。101例中26例、率にして27%になるから、サメにやられた4人に1人はサーファーという計算なる。だからというわけではないのだろうが、サーファーたちの間では、サメにまつわる冒険話が尽きない。わたしの知っている話しのひとつは、マウイに住むウインド・サーファーのマイク・ウォルツ(注7)本人から聞いたものだ。
彼はある天気のいい午後、ホオキーパ・ビーチからホノルア湾までウインド・フィッシイング(注8)をしながらセイリングを楽しんでいたところ、上手い具合に1匹のマヒマヒ(シイラ)がかかった。彼は、マストを倒し暴れる魚を引き寄せていたら、1匹のサメが近づきアタックのチャンスを狙って、サーフボードの回りを円を描きながら泳ぎはじめたという。彼は、とっさに右手でセンター・ダガー・ボードを引き抜き、左手で釣糸を手繰り寄せ釣れた魚を持ち、サメをおびき寄せた。そして、サメが魚にアタックした瞬間、ダガー・ボードで思い切りサメの鼻面を強打したしたところ、それっきりサメは姿を見せなくなったという。こうして彼は、無事目的地のホノルア湾に魚ともども辿り着いた。
あるとき、『サーフィンライフ』(注9)の編集部に、みっちゃん(出川三千男氏)が1人のサーファーを連れてやってきた。紹介されたサーファーは、カウアイ島で波乗り中にシャーク・アタックされたという。持参したサーフボード(出川三千男が削ったモス・サーフボード)にはサメに噛まれたと思われる直径50〜60センチの見事な半円形の歯形が残されていた。彼の話によると、カウアイ島のとあるサーフ・ポイントで早朝1人で波乗りをしていたという。セットが入ってきたのでパドリングをはじめた彼は、波を確かめるべくひょいと後ろを見ると、その視界には口をパックリと大きく開けたサメが見えたという。開いた口の大きさだけでも小山のように見えたと彼はいう。その小山のような大きな口はまっすぐ自分に向かってきたので、彼はあらゆる力を振り絞って岸に向かって一目散にパドリングをつづけた。が、サメの泳力にかなうわけはなく最後には、サメは彼の右膝あたりをアタックした。彼は、サメに襲われるその瞬間に、右足をヒョイと持ち上げたのでサメはサーフボードだけを噛って、エサではないと思ったのかそれっきり姿を見せなかったという。彼はビーチに生還した後、小一時間ほど身体の震えが止らなかったらしい。後に、東海大学の研究室にそのサーフボードを持ち込み調べてもらったところ、歯形や大きさから体長4〜5メートルのイタチザメであることが推測された。彼は、無事生還できたのは恐くても目を逸らさずにサメを見つづけたことだと、インタビューの最後に述懐した。
ボディボーダーが相次いでシャーク・アタックに遭い死亡した1992年の事件後には、黄色はサメが好む色だという噂がボディボーダーの間で広がり、それまで主流であったボトムが黄色のボードがあっというまにサーフ・ショップから姿を消してしまった。実際、サメが好む海亀の腹は白っぽい黄色で、海のなかから見ると、黄色のボトムのボードに浮かぶボディボーダーの姿が海亀に見えないことはないが、しかし、サメは色盲だという学説がある(注10)。
前述のマイク・ウォルツやシャーク・アタックの遭遇者、友人の海洋カメラマンやライフガードたちの話を総合すると、サメに遭遇したら、とにかく落ち着くことに尽きるようだ。サメが出現したサーフ・ポイントに経験豊かなサーファーがいれば、彼は大声でみんなにこういうだろう。
「ドント・ムーブ! イフ・ユー・ムーブ、シャーク・バイト・ユー」
(動くな!動いた奴はサメに喰われるぞ)
サメの背びれを見てパニくる初・中級者は必ずバシャバシャと必死の形相で岸に戻る。サメにとってそのバシャバシャは、魚が銛を打ち込まれ暴れている音というわけで、ハワイのベテラン・サーファーならば、サーフボードに腹ばいになりサメの動きを静かに観察し、万が一サメが自分に向かってきても、サメの鼻面にパンチを与え難を逃れるだけのサバイバルの知識を身に付けている。
もしサメがこちらに向かってきたら鼻先にパンチをお見舞するというのだが、いざ自分がそういう場面に遭遇したらどこまで冷静になれるのだろうか。わたしもスクーバ・ダイビング中に2度ほどサメに接近遭遇したことがある。一番最初に出会ったのは、5メートルクラスのイタチザメ(注11)で、マウイ島モロキニ環礁(注12)のダイビング・ポイントだった。そのサメはわたしの10メートルほど上を泳いでいたのだが、サメを見つけたわたしは、恐怖のあまり呼吸が荒くなり海面近くまで身体が浮き上がってしまった。サメから逃げようとしたのだが、不覚にもサメに近づいてしまったのである。幸いなことに、ドタバタと慌てふためいて近づいてくる変なヤツを一瞥したサメは、スーといなくなった。
また、友人の一人がモルジブでシャーク・ウォッチング・ツアーに出かけたときのこと。インストラクターに、海底の大きな岩の後ろに隠れてサメを待つようにいわれた彼は、息を潜めてドキドキしながらサメを待っていた。と、突然、大きなサメが友人に向かって泳いできたという。その瞬間、岩陰で息を潜めていた彼のレギュレーターからはブクブク、ブクブクと、多量の泡が噴き出していた。彼はあまりの恐怖で息を潜めようにも息が上がってしまったという、笑い話になってしまった。
とはいえ、サメや鯨などはレギュレーターから放出される泡や機械的なエキゾースト・ノイズを嫌う、という話をわたしの信頼する知り合いのダイバーから聞いてからは、水のなかで冷静にいられるようになった。その後、ラナイ島で潜ったケイブのなかで、突然出てきたネムリブカ(注13)と出会い頭に衝突しそうになったことがあったが、その時は足に付けていた水中ナイフのホルダーのボタンを外すゆとりさえでてきたのだった。恐怖を打ち消す唯一の方法は、相手を知ること、つまり、サメの生態をより詳しく知ることなのである。
ハワイの海では海亀をよく見かける。ノースショアでは、サンセット・ポイントやバンザイ・パイプライン、そしてラニアケアからハレイワに至るまで、いたるところに海亀がいる。サーファーにとっての危険信号は、いつもテイク・オフするポイントの波間に見え隠れしている海亀の姿を見かけないときだ。海亀は、サメが現れる前に危険を察知していち早く姿を消してしまっている。シャーク・アタックから身を守る格言その2、海亀がいないときは、波がよくても海からすぐに上がること。また、サメは100万分の1に薄めた血のにおいをも感知する能力があるので、怪我をしていたり、女性ならば生理中には、やはり海に入ってはいけない。
注7:
Mike Walzs/マイク・ウォルツ
ハワイではじまったウエーブ・セーリングにおいて、マウイの先駆者的な役割を果たしたウインドサーファー。彼自身ビッグウエーバーであり、ジェリー・ロペスのウエーブ・セイリングの先生のひとりだ。最近では、トーイング・サーフィンではジョーズ・アタッカーのひとりとして、ビデオに登場している。
注8:
ウインド・フィッシングは、セーリングしながら餌をつけた釣針を流し、トローリングする。ハワイ近海ではマヒマヒ(シイラ)、時にはアヒ(黄肌マグロ)などが釣れる。ウインド・フィッシングには、ボード中央にヨットと同じような機能を果たすダガーボードが取付けられているタイプのボードが便利だ。ちなみにその時彼がウインド・フィッシングに使っていたボードはウインドサーファー艇という、初期の形だった。
注9:
サーフィンライフ(出版社・マリン企画)は1979年4月に創刊されたサーフィン専門誌。
注10:
一般的に魚の視力は陸上の動物のように発達していない。眼の網膜には明るいときに働く視細胞(椎体)と暗いときに働く視細胞(桿体)があるが、サメの眼には桿体が多く、薄暗いほうがよく見えるが、色彩を区別する能力に乏しい。少なくとも動くものを背景から区別する能力は充分に備えている。また、ホホジロザメは色を識別することができるという研究報告もある。
注11:
イタチザメ
学名:Galeocerdo cuvier
英名:tiger shark
ハワイ名:niuhi
イタチザメはメジロザメ科のサメで、体長4〜5メートル、体重200キロ。全世界の温帯〜熱帯域に広く分布する。ヒザほどの浅瀬まで侵入し貪欲に何でも喰らいつく人喰いザメの代表、オーストラリア、ハワイではほとんどがこのサメによる被害だ。
注12:
モロキニ環礁は、マウイ島の東岸の沖に浮かぶ三日月型の島。潮の流れが比較的早い中級者向けのダイビング・スポット。
注13:
ネムリブカ
学名:Triaenodon obesus
英名:whitetip reef shark
ハワイ名:lalakea
ネムリブカはメジロザメ科のサメで、体長1.5〜2メートル、亜熱帯、熱帯のサンゴ礁に広く分布する。日本名のネムリブカはトカラ列島宝島の海底の穴に身を横たえている様が眠っているように見えたところから付けられた。
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投稿者 でがわ : 2007年09月18日 18:54
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