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ハワイアンのソウル・フード

2007年08月16日




あるとき、世界で最も体格がいい人種はハワイアンだという研究レポートが、地元ハワイの新聞に載った。なるほど、ハワイでは曙や小錦クラスの太ったハワイアンをたくさん見かけるし、相撲ばかりではなく、アメリカン・フットボールの選手のなかにもハワイ出身の選手が重量級フォワードとして活躍している。アケボノ、コニシキ、ムサシマルと、歌のなかで日本で活躍する彼らハワイ出身の相撲取りをレゲエ調に歌い上げたハワイアン歌手のイズラエル・カマカヴィヴァオレ(注14)もまた体重700ポンド(315キログラム)を越える巨体だった。ハワイの人間国宝ともいえるイズラエル・カマカヴィヴァオレは、1997年に太り過ぎによる呼吸不全で急死してしまった。通称イズは、自らの巨体を共振胴のように震わせて、世界一美しいボーイズ・ソプラノでハワイアン・ソングを歌った不出生の歌手であった。


話はちょっと横道にそれたが、なぜ、ハワイアンが世界一の体形になったのか? 研究レポートでは、その理由として食生活、特に主食にしているタロを上げている。ハワイは、古くから世界で最もタロを常食にしている地域のひとつだという。タロには、70〜80%の水分と18〜24%の最上級の炭水化物が含まれている。特に、タロをすりつぶしたポイは大量のビタミンが含まれており、消化・吸収が早いので、ハワイでは赤ちゃんの離乳食として利用されている。タロは、身体のペーハー値を保ってくれるアルカリ健康食品としても知られている。


このタロまたはポイの摂取過多、つまり食べ過ぎによって、ハワイアンの肥満が起きるという。炭水化物は、スポーツや肉体労働などによって身体を動かしているかぎり、エネルギーとして転換されるので問題はないが、消費されない炭水化物は、脂肪として体内に蓄積される。消化・吸収がよい高炭水化物のタロを主食として長い年月を経てハワイアンは、世界一体格のよい人種になってしまったというのである。


太平洋の民族の移動で見ると、おもしろいことが分かる。もともとハワイアンの祖先は、パプア・ニューギニアにいた海洋民族だとされている。彼らは、ハワイ語やフィージー語、ニュージーランドに住んできたマオリ語のオリジナルであるオーストロネシア語を話していたので、人類学上ではオーストロネシア語族と呼ばれている。彼らは、ラピタ式土器(注15)をたずさえて、ニューブリテン諸島やビスマーク諸島から島伝いに太平洋の島々にカヌーをこぎだした。ソロモン諸島、ニュー・ヘブリデス、フィージーなどのメラネシアを経て、紀元前2,000〜1,000年ごろにはサモアやトンガなどの西ポリネシアに到達した。オーストロネシア語族は、この西ポリネシアに約1,000年の間次の移動を中止している。こうして、ポリネシア人の祖先は、紀元前後になると再びマルキーズ諸島を経てあるグループはタヒチへ、そしてあるグループはハワイへと移動を開始した。タヒチからハワイヘの移動は、さらに1,000年後の紀元1,100〜1.300年頃となる。


痩せてはいるが屈強の海洋民族が太り大きな体になっていった人類学上分岐点は、どうやらこのトンガやサモアなどの西ポリネシアにあると、わたしはにらんでいる。わたしの知っているトンガ人やサモアの人はみんな太っていて体格がいい。それに比べ、ミクロネシアやメラネシアの島々に住む人は、がっちりと骨格はいいものの概して痩身である。つまり、世界一の体格は、移動を中止していた1,000年の間に形成されていったと推測できる。もちろん、サモアでもトンガでも、そしてタヒチでもタロを常食としている。タロはポリネシア人の主食なのである。


以前、カパフル通りにスモー・コネクションというお店があった。お店のオーナーはジャニス・ローエンという、太った中年のハワイアンのおばさんだが、実は彼女は、知る人ぞ知る曙のお母さんである。店内には、曙の何種類もの写真がプリントされたTシャツやお店のロゴが入ったタンク・トップ、曙のポスターや相撲グッズ・小物類が所狭しと置かれている。このお店は、いわゆる曙のロゴ・ショップというコンセプトなのだが、何やら場末の温泉にあるみやげ物屋という雰囲気が漂っていた。ジャニス・ローエンは、いつも両方の入り口を見渡せる場所にデンと構え、椅子に座っている。300ポンド(135キログラム)はゆうにありそうな豪快な下半身がムームーのラインから見て取れた。わたしは、ジャネットのお店に4〜5回ほど通ったが、未だに彼女の体重を聞きそびれている。


彼女は、わたしがノースショアでタロを育てていることを知って、面白がった。ケラケラと大きなお腹をゆすって笑う陽気なハワイのお母さんは、「アケボノもタロが大好きだったわ、彼もポイで大きくなったの」と、1人でしゃべる。もちろん、彼女自身おいしいタロには目がないという。小学校4年になる甥っ子のひとりはすでに165ポンド(75キログラム)もあり、ビーチにも1人で行けないほど太ってしまっている、とまたケラケラと他愛なく笑う。その甥っ子を曙に預けて、相撲取りにさせる計画もあるそうだが、小錦の日本での成功以来、ハワイでは太っている少年は全員相撲取り候補なのである。


このようにいろいろな人の話を聞いているうちに、ハワイアンはタロを食べて太るということを当たり前、むしろ誇りにさえ思っているふしがあるように思われてきた。タロにたいするハワイアンの考え方には、歴史的・文化的側面を見逃してはならない。というのは、相撲取りのように太らなければ上手に表現できないハワイの文化がある。イズの例でも分かるとおり、ハワイアン・ミュージックしかり、そしてフラだってそうだ。大自然がダイナミックに息づく雄大なハワイを表現するには、それに負けないだけの大きな身体が必要なのかもしれない。


古代ハワイアンにとってすべての食べ物のなかで、タロは最高の人生をおくることができる食べ物と信じられていた。なぜハワイアンにとって、タロを食べることが大きな意味を持っていたのか? その答えはハワイの創造詩クムリポのなかに求めることができる。


ワケア(空の父)とパパ(大地の母)の娘ホオホク・カラニの間に生まれた最初の男の子、ハロア・ナカは早産で、小さすぎてすぐに死んでしまった。彼は家の外れに埋葬された。少し経ったころに、その子の身体からタロが生えてきた。葉はラウ・カパ・リリ(そよぐ葉)、茎はハロア(永遠の呼吸)と名付けられた。それからしばらくして、また子どもが生まれた。タロの茎から名前を取って、ハロアと命名された。ハロアは、やがて地球上のすべての人間のはじまりとなった。


ハワイの創造詩では、タロと人間は同じ両親から生まれてきた兄弟。長男がタロで、次男が人間とされているのだ。ある本で、ポイは、ハワイアンの魂の食べ物だと書かれていたが、タロなくしてハワイアンはありえないというのが、歴史的認識なのだろう。




注14:
イズラエル・カマカヴィヴァオレは、14歳のときに兄のスキッピーとともにマカハ・サンズ・オブ・ニイハウというバンドをはじめたが、兄はやはり太り過ぎで死亡。1993年には独立してソロ歌手として活躍していた。


注15:
ラピタ式土器は、粘土の器にクシのような道具でさまざまな紋様をつけた土器のこと。器につけられた独特な幾何学紋様は140種類あり、ハワイではタパの紋様のデザインとして、また入れ墨のデザインとして受け継がれている。メラネシアと西ポリネシアの古代遺跡からこのラピタ式土器が発掘されている。ラピタ文化は、紀元前1,500〜500年ごろ栄えた南太平洋古代人文化とされている。




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