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レイ・ショップのハワイ語クラス

2007年06月18日

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スリー・テーブルスの集会場で行われていたハワイ語クラスは、結局足掛け3年で休講してしまった。理由は、長続きする生徒が少なく、1学期3か月の期間が終了するたびに新しく入ってくる初級者のためにまた一からハワイ語を教えなければならなかった。そのため、授業がなかなか前に進まず、わがハワイ語の先生ブッチーは、欲求不満に陥ってしまったからだ。欲求不満に陥ったのはブッチー先生ばかりではない。以前から受講している本気モードの生徒たちもわたしと思いは同じだったに違いない。ハワイ語会話をもっと上手くなりたいクラスの有志たちが集まり相談した結果、生徒の一人であるヒナノおばさんのレイ・ショップで週2回程度、つづけてブッチー先生にハワイ語会話の授業をお願いすることになった。


ハワイアンの血を引くヒナノおばさんのレイ・ショップは、キャム・ハイウエーに沿ったサンセット・ビーチ近くの山側にある。道路脇にはスモーキー・エースという屋号が書かれたピンクの看板が掲げらているが、母屋と一体になったレイ・ショップは道からは見えず、少し奥まったところにあった。2エーカーほどの敷地の裏庭には100本以上のプルメリアの木が植えられ、いつも可愛らしい無数の白い花をつけている。


このレイ・ショップは、わたしにとって感慨深い思い出があった。まだノースショアに移り住む前、わたしは東京で仕事をしていたのだが、某大手ファッション・メーカーのPR誌の取材でこのレイ・ショップにお邪魔をしたことがあった。月日というのは不思議なもので、いまわたしは、ハワイ語を習うためにかつて記事にしたこのレイ・ショップに毎週通っている。


ヒナノおばさんにはまだこの話しをしていない。当時作ったPR誌をいま手元持っているわけでもないし、彼女にそのPR誌を送った記憶もない。なにげなくいいそびれているのは、忙しさにかまけてそんないいかげんな仕事をしていた東京時代のわたしの姿を、わたし自身思いだしたくないからかもしれない。


ヒナノおばさんは、毎朝3時にはプルメリアの花を摘みはじめる。甘い香りを放つプルメリアの花の命はたった一日、すぐに茶色く変色をはじめる。それゆえ、プルメリアの花は、まだ太陽が登る前につぼみの状態で摘まなければならない。お店には、鮮度を保つために大きな冷蔵庫が二台置かれ、そのなかにはいつも新鮮なレイが掛けられている。お店の前は南国の強い日差しを遮るために大きな屋根が張り出しており、ハワイの公園などでよく見かける椅子とテーブルが一体となった大きなベンチが置かれ、ハワイ語の授業は、夜お店が閉まった後にそこで行われた。


有志たちがはじめたハワイ語クラスでは教科書はまったく使われていない。もちろんレイ・ショップには黒板もないので、授業はブッチー先生が話すと同時にその言葉を書きとめていかなければならなかった。しかし、ベンチは、両側に大人が8人も座れば一杯となってしまい、机の上はバインダー式の大きなノートを広げるスペースもなかった。体の大きな生徒たちは、背を丸めて小さな紙切れにメモをとるか、頭のなかにでも書き込んでいかなくてはならなかった。


ブッチー先生は、生徒たちがノートをとらないという、そんな授業のすすめ方が好きなようだ。もともとハワイ語には書くという行為はなかったから、昔の人たちは、会話を繰り返すことでハワイ語を学んできたにちがいない。生徒たちもまた、書くという余分なことに注意を取られず、先生の発音とイントネーション、そして、先生の顔色で意味あいを理解することに神経を集中することができた。それでも、会話はその場で覚えなければならず、授業は2人一組になって何回も何回も同じ会話を反復させられた。生徒が少しでも間違うと、ブッチー先生から「ア・オレ(違う)!」という叱咤(しった)激励の声が飛んできた。ハワイ式授業は、習うより慣れろ、なのだ。


授業は、毎回テーマを決めて行われている。あるときは、レストランに行くという設定で、生徒たちは客とウエーターに分かれて、一方はポイとかルアウ、そして飲み物などの注文をし、もう片方が注文を受けるといった、実戦的な会話の練習をした。またあるときは、時間の聞き方や数字の数え方など、古代ハワイアンたちの日にちの概念の解説を聞きながら、会話を通して授業が行われた。そして、またあるときは、クジラの骨のペンダントやククイナッツの首飾り、椰子の繊維で編んだひもなど、ハワイの伝統的な装飾工芸品を持ってきて、それを素材に会話の練習を繰り返した。ほとんどの生徒たちは、すでに3年以上ハワイ語を習っているので、授業のほとんどはこういった日常的な会話に割かれるようになった。こうして、ブッチー先生の欲求不満もどうやら解消されていったようである。 


ある晩、ハワイ語の授業が終わったとき、ブッチー先生は、わたしに今週の日曜日にププケア(ハワイ語の正確な発音ではプープーケア)にあるヘイアウに来られないかと尋ねる。どんなイベントがあるのかとわくわくしながら先生の次の言葉を待っていたら、朝9時から午後1時までヘイアウの掃除をするという。それを聞いたわたしはちょっとがっかりもしたが、ヘイアウからの眺めは抜群にいいし、文献で知りえなかったおもしろい話がブッチー先生から聞けるのではないかと思い、登山靴と皮手袋、麦わら帽子に一晩中冷凍庫で冷やし半分氷になった水のボトルを携えて、翌日曜日の朝、ピクニック気分でプープーケアのヘイアウに向かった。

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コメント

投稿者 物書きネット : 2007年06月24日 12:19
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