
古代ハワイでは、サーフィンは大波に挑戦したり、サーフィン大会ではスピードを競う競技であったことは、その当時のサーフボードの形状が大いに関係している。古代ハワイで使われていたサーフボードは、長いうえに重く、そしてスケッグが付いていなかったため、現在のようなサーフィンのパフォーマンスは発揮することができなかった。資料を読み進めていくと、当時のサーフボードが、日本の武士における刀のように、重要な役割を果たしていたことが分かってきた。つまり、古代ハワイアンたちにとって、とりわけ位の高い酋長にとってサーフボードは、快適にサーフィンを楽しむうえで、また、自分のサーフィンの技術やパフォーマンスを向上させ、ひいては、酋長としての名声や権力を得るためにも重要な道具であった。刀が武士の象徴であったように、酋長(ハイ・チーフ)にとってサーフボードはハワイアン・スピリットを象徴していた。
そういった意味でも、古代ハワイ社会では、サーフボード作りはとても重要な仕事の一つであった。支配者クラスの酋長が新たに自分のサーフボードを作ろうとしたら、まず、寒冷な山の頂上付近まで分けいり、その地位に相応(ふさわ)しい大きさと太さを持ったコア、または、ウイリーウイリーの木を入手しなければならなかった。パパ・ヘエナルと呼ばれたサーフボードは、アフプアア(技能集団)にいる優秀な技術者、サーフボード作り専門の技術者、現代でいうところのシェーパーが、石の斧などを使って丸太から削り出して作っていった。
1本のサーフボードを作るだけでも、さまざまな手順をふんだ儀式が必要であった。まず、材料としての適当な木が見つかったら、クームー(注21)という赤い魚をその幹に縛りつけた。それから木を切り倒し、木の根を掘りだし、その穴のなかにクームーを入れ埋め戻し、お祈りをした。こうして、魚を埋めることにより、彼ら古代ハワイアンたちは木を創造した大自然(神)にたいして敬意を払ったのである。カーフナによる儀式が終了すると、フラなどが演じられたという。それから、幹は、大ざっぱに注文の形状に削られた後、山から運び出され、ビーチの脇に建てられているハーラウ(カヌー小屋)に運ばれ、最後の仕上げがおこなわれた。
ハーラウでは、手斧で荒削りされたサーフボードは、ビーチから大量に集められたポハク・プナ(pohaku puna)と呼ばれる波状になった珊瑚のかけらや、オアヒ(oahi)と呼ばれるざらざらした小石をやすりのように使い、でこぼこの表面が滑らかになるまで削りだした。最後の仕上げは、モレ・キィ(mole ki)と呼ばれるティの木の根っこや、ヒリ(hili)と呼ばれる叩いたククイナッツの樹皮で色づけされた。もっと黒く光沢をだす場合は、ククイナッツの木の根を焼いて墨にしたものをサーフボードの表面に塗布した。また、それほど光沢や色をつけないときには、サトウキビの葉を燃やした灰や、アマウ(注22)というシダの一種の葉を塗りつけ、仕上げられた。
このようにして作られたパパ・へエナル、サーフボードは、波質に合わせて3種類のテンプレートが用意されていた。1本目はオロ(olo)と呼ばれるボードで、真ん中が厚く、先端にいくほど薄く削られていた。このオロは、大きく緩くブレークする波に長く直線的なライディングができたが、波が高かったり、巻いてくる波には適していなかった。
2本目はキーコオ(kiko'o)と呼ばれたサーフボードで、長さ3.6〜5.4メートルあり、荒れた波に適していた。このボードはいわゆるサーフィンに向いているのだが、コントロールをすることが難しく、高度な技術を要したという。多くのサーファーは、大きく巻いて崩れてくる高波をハイ・スピードで滑ることのできるこのボードに乗ることをためらったようだ。
3本目はアライア(alaia)と呼ばれ、長さは二・七メートルあり、ノーズ部分が広く薄くなっており、前後に反りがつけられていた。このボードは操縦しやすく、急激に崩れる波のなかでターンをしたり、斜めに進むことができた。技術のある熟練サーファーは、好んでこのボードでサーフィンをしたが、初心者には難しかった。ハワイの史実では、このアライアと呼ばれたサーフボードは、古代マルキーズ人が持ってきたとされている。
このように、古代ハワイ社会においてサーフボードは、権力や地位を現す特別な存在であり、とても高価なものであった。平民クラスの人々は、単純で安価な、板きれのようなサーフボードしか持つことができなかった。ハワイ人の作家ジョン・パパ・イイは、1812年マウイ島のラハイナでバナナの幹で波乗りをしている少年の姿を目撃している。また、前出の宣教師エリスは、1822年に黒く塗られたサーフボードを見ている。当時、波乗りを終えたサーファーは、サーフボードを注意深く乾かし、その後、表面を椰子の油で磨き上げ、布に包んでから家のなかの所定の場所に保管していたという。今も昔も、サーファーにとって命の次に大切なのは、サーフボードなのである。
注21:
クームー(kumu)
ハワイ名:kumu、英名:Goat fish、学名:Upeneus porphyreus、日本名:ヒメジ
注22:
アマウ('ama'u)
ハワイ名:'ama'u、英名:fern、学名:Sadleria、日本名:シダ類
このエントリーのトラックバックURL: