
翌日、痛みはすっかりと引き、足の腫れもほとんどなく、昨夜のことがうそのように忘れてしまっていた。なぜならば、その日一日サーフィンをやっていたからだ。あれほど痛かった右足の親指と人さし指の間の付け根付近の患部には、蚊に刺されたような、小さな赤い斑点が微かに残っているだけだった。
しかし、それが悲劇の第二章の幕開けになろうとは・・・。
火曜日の朝、わたしはベッドから起きようとしたのだが、右足が思うように動かない。見ると、右足は左足の倍以上に膨張し、右足の付け根のリンパ腺がゴルフボール大に腫れ上がっていた。右足は象の足のように変貌を遂げていた。立ち上がると腫れたリンパ腺が邪魔をして思うように歩けないほど、右足だけがひどく腫れてしまって
いた。
その日、たまたま家に遊びにやってきた友人のカメラマン、ジェフ・ホンベーカーは、わたしのそのひどくむくんだ右足を見て驚愕する。へたをすると右足切断という事態になりかねないと、彼は心配し、とにかく毒を身体から出すための処置をしようと提案した。彼は、普段から未開のジャングルを分け入り、冒険的なサーフトリップを続けて雑誌に発表していたので、さまざまな応急処置の心得があった。
「きっとサソリに刺されたんだろ。サソリはいつも暗くじめじめした草むらなどに潜んで、昆虫を捕食して生きているんだ。60度の熱湯をバケツいっぱい満たし、二握りの塩を入れたなかに足を30分ほど浸けろ」
と、彼は命令する。それを朝・昼・晩と日に3回、2週間続ければ、足から毒は抜けるとつけくわえた。
こうして、わたしは右足を切断する恐怖に戦いながら2週間、朝、昼、晩、二握りの塩を入れたバケツいっぱいの60度の熱湯のなかに30分間、醜く腫れた右足を漬けるというルーティンを続けた。
そんなある日の午後、やっと正常になった右足を確認して、久しぶりにサーフィンをするために海に行った。そして、海から上がった後、ビーチでその右足を眺めていると、その刺されたと思われる場所のかさぶたが取れかかっていた。ツメの先でかさぶたを注意深くつまみ上げると、2~3センチほどの長さはある白い糸状の物体がついて出てきたのである。それは、まさしくたんぱく質の一種であるサソリの毒が固まった油脂であった。
かつて、わが家に立ち寄った日系のおじいちゃんは、「ワシはのー、生まれて70年、ムカデに3回、サソリに2回、やられたよ」と、テレ笑いを浮かべて話してくれたが、その時、まさかわたし自身がサソリに刺されるとは夢にも思わなかったのであった。
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