人間が住みつく以前のハワイには、いくつかの種類の野鳥とフクロウ、そしてコウモリとゲッコーと呼ばれるヤモリのたぐいしか棲息していなかった。現在ハワイで、グアムのブラウン・ツリー・スネークのように猛威を奮うほど大繁殖をしている外来種の生物は、野生化したニワトリとヤギ、そして野ブタがいる。また、ハワイアン・ラッツと呼ばれる小型のねずみも大繁殖しているが、これらのねずみを退治するために輸入した天敵のマングースもまたノースショアでは大繁殖している。ハワイでなぜねずみとマングースが共存してしまったのか?それは、ねずみは夜行性で、マングースは昼間行動するから、みごとに住み分けてしまったのだそうだ。この逸話は、ハワイの人々が大好きな笑い話のひとつではある。

さて、ハワイの代表的爬虫類というとやはりヤモリだろう。ヤモリのハワイ名、ゲッコーはTシャツの柄などにも登場するなどハワイでは大変なじみが深く、みんなから親しみをもたれている爬虫類である。冷酷無否な目を持つ爬虫類のなかでは例外的にたれ目でユーモラスなところがいいのかもしれない。
わが家にも20匹以上のゲッコーが昼となく夜となくあたりかまわず彷徨していたが、部屋のドアを閉めるとき、挟まれて圧死してしまったとんまなゲッコーや、ごきぶりホイホイにひっかかり、餓死するのろまなゲッコーもいて、ハワイのヤモリを観察しているとけっこう笑えることが多い。夏はベイビー・ゲッコーのシーズンで、しっぽも入れて2センチほどの小さなゲッコーが1ダースほど家中をうろついている。そのうち、天井でパタパタと回っているファンの上に落ちたり、突然のスコールで水死したりと、冬場には2~3匹しか生き残れないサバイバル・レースが夜な夜な展開している。
彼らの得意とするのが、壁や天井をのそのそはいずり回れることだ。その秘密はもちろん足の裏。タコの吸盤のような構造だと思ってたら、大間違い。前足と後足にある各4本の指の裏は細かなヒダのようになっていて、このきめの細かく柔らかいヒダを使って足掛かりにしている。ガラスの上でも、スベスベの壁でもスルスルと滑るように歩く様子はなかなか愛らしい。
彼らは家ばかりではなくクルマさえ住まいとしていて、時々運転中、外側のフロントガラスの上にのこのこと飛び出してくることがある。わたしの実験では、時速50マイルのスピードを出しても、ゲッコーは風圧をものともせずに持ちこたえることができた。
さて、彼らの2番目の得意技が変身。白い壁ではプラスティックのような半透明で、内蔵とかが透けて見えるので観察をするにはちょうどいい。茶色の壁では茶色にカモフラージュができる。また、まだピクピクと動くしっぽを置いて、すたこら逃げる離れ業もあるゲッコーはなかなかの芸達者であるようだ。
彼らの最大の得意技が大食い。人間にとってあまり歓迎されない虫たちを餌にしているところが、爬虫類にしてはエラク人気が高い理由でもある。蚊やハエや、時々大量発生するターマイト、蛾のたぐいからゴキブリさえも彼らのターゲットである。ハワイのゴキブリは大きくて、平均5~6センチもあるのだが、それをパクリとやる。ゲッコーは大きいもので10センチぐらいあるが、爬虫類の特徴で体の大きさの割に口が大きい。長い舌を上手に使い、小さいものだったらペロリ、大きいものだったらパクリといく。
毎夜、キ、キ、キ、断続的に続く甲高い声を発しがら、太い胴体を左右に振る愛すべきゲッコーは、ノースショアにはなくてはならない共同生活者なのである。
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あるとき、ビッグアイランドやマウイ島などハワイ諸島の自然百選的な写真集を見ていた友人の一人が唐突にハワイにはヘビはいないのかと、尋ねてきた。世界第2位の熱帯雨林を有するカウアイ島のジャングルなら何らかのヘビがいてもおかしくはないが、その友人の期待を裏切るようだが、わたしは即座にいないよと返事をした。しかし、これは正確ではない。なぜならば、ハワイにはヘビとは名前ばかりの、ミミズの親戚のような小さなヘビが1種類いるからだ。

名前は、ブラインド・スネーク。体長は15センチ前後、胴回りもミミズほどの太さで、色はほとんど黒に近い。名前のとおり視力がほとんどない夜行性のヘビで、日中は土のなかに隠れている。アリやシロアリなどを食べるという、人間にとっては無害で可愛らしいこのヘビは、ノースショアでもたくさん見ることができる。
以前思いがけず、友人の家のプールで溺れかけているブラインド・スネークを助けあげたことがある。プールに黒いヒモでも浮いているのかと思い、水から拾い上げたところ動きだしたので、初めてブラインド・スネークと分かったぐらいだ。夜中、もそもそと動き回り、プールに落ちてしまったのだろう。助け上げたのが午後の2時ごろだったから、ブラインド・スネークは、かれこれ半日は泳いでいたことになる。
また、ある日、農作業中に一度、ブラインド・スネークをくわで真二つにしてしまった。トカゲのしっぽのようにふたたび再生するかもしれないと思って、ふたつになったブラインド・スネークの胴をくっつけて土をかけておいた。その2~3日後にふたたび様子を見に行ったのだが、ブラインド・スネークの胴が再生されたようすはまったくなかった。
さて、ヘビがいないハワイの島々の生態系を守るため、世界中でもっとも厳しい監視体制をしいているハワイの動植物検疫官たちが今最も目を光らせているのが、グアム島で大繁殖しているブラウン・ツリー・スネーク(注1)というヘビだ。このヘビは、1940~50年代にニューギニアまたはソロモン諸島から積み荷に紛れてグアム島へ上陸し、それまでヘビのいなかったグアム島で大繁殖し、グアム島原産の鳥類を含めて島に棲息していた野鳥の卵をあっというまに食い尽くし、1970年代には9種類のグアム固有種と野鳥がほぼ全滅してしまった。さらに、このやっかいなヘビは、止まることをしらずグアム島内を荒らし回り、電柱に上り電線に食いつき島中の電気を停電させ、年間数百万ドルもの被害を与えるほどになってしまった。また、ブラウン・ツリー・スネークは、廃車になった車のなかとか倉庫や物置、家の天井付近などに棲みつき、老人・子どもたちから赤ん坊に至るまで誰彼かまわず噛みつきまくり、グアムの人々の切実な問題にもなっている。困り果てたグアム政府は、このブラウン・ツリー・スネークのおいしい食べ方、料理法を募集したりして、このヘビの退治を目指したが、いまだに大した効果は上がっていないという。

ハリケーンに自宅を吹き飛ばされるまでグアム島に住んでいたかっちゃん(川南活氏)もまた、グアム島在住時代、このヘビの餌食になっていた。夜、就寝中に突然天井から落ちてきたブラウン・ツリー・スネークに腹を噛まれたという。かっちゃんいわく「こいつらはとても攻撃的なんだよ、何たって、寝込みを襲うんだから」と。
ハワイでは、このブラウン・ツリー・スネークはグアムの基地から頻繁に飛行してくるアメリカ軍の飛行機の荷物室から何回か発見されてはいるが、いまのところ、ハワイ上陸を水際で阻止している、と検疫係り官は見ている。が、一部の専門家のあいだでは、すでにブラウン・ツリー・スネークは、オアフ島に侵入しているのではないかと、憂慮する。
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東京生まれの東京育ち。海への憧憬は子どもの頃から強く、思い余ってハワイへ移住。12年間、オアフ島ノースショアのはずれで暮らす。「サーフィンライフ」初代編集長を経て、ハワイ時代はコンチネンタル航空の機内誌「パシフィカ」編集長を務めるなど、メディアの職人。